​坂 茂

建築家。東京都生まれ。18歳のときに、アメリカの建築家ジョン・ヘイダックの作品集に強い感銘を受け、建築を学ぶために渡米。1978(昭和53)~1980年、ロサンゼルスの南カリフォルニア建築大学で建築を学ぶ。1980年からニューヨークのクーパー・ユニオン建築学部に在籍。在籍中の1982~1983年、磯崎新(あらた)アトリエに勤務。1984年、クーパー・ユニオン卒業。1985年に事務所、坂茂建築設計設立。
 独立初期の頃には、エミリオ・アンバースEmilio Ambasz展(1985)、ジュディス・ターナーJudith Turner展(1986)、アルバ・アールトの家具とガラス展(1986)といった展覧会の企画および会場構成を行う。初期の住宅作品として、Villa TCG(1986)、Villa K(1987)、3枚の壁(1988)、Villa KURU(1991)といった一連のビラシリーズがある。この頃の作品には、多様な素材を使った強い幾何学的形式、および壁による明快な空間分節と水回り部分などをまとめたコアの導入といった特徴がみられる。坂はこうした試行を経た後、幾何学的構成による設計手法からの脱皮を目指すようになる。そうした転機をもたらした作品がVilla TORII(1990)およびI HOUSE(1991)である。ここでは2枚の平行な壁を自立させることで、幾何学的なコンポジションの美学とは異なる空間的境地が目指されている。平行な壁の自立という手法を使った作品としては、ほかに石神井(しゃくじい)公園の集合住宅(1992、東京都)がある。
 また、坂は独立初期に展覧会の会場構成において利用した紙管を発展させ、1980年代後半以降に「紙の建築」シリーズをさまざまな形で展開するようになる。この「紙の建築」シリーズは、初めは小田原パビリオン(1990、神奈川県)といった仮設建築において実験的に使われていたにすぎなかったが、構造家の松井源吾(1920―1996)と協同して紙の強度に関する本格的な実験・開発を行い、1990年代に入って詩人の書庫(1991)、紙のギャラリー(1994、東京都)、紙の家(1995)といった恒久的な紙の建築物をつくるに至る。坂はこうした紙の建築の開発にみられるように、単に建築を美学的に追求するのではなく、エンジニアリングとデザイン、および社会システムの交叉する場所のなかに新しい建築の可能性を見いだし、それを社会へと投げ返すといった試行を繰り返している。そうした作品の系列として、安価な杭を構造用の柱として転用したPCパイルの家(1992)、二重化した屋根によって屋根荷重を分離させたダブル・ルーフの家(1993)、家具自体を主体構造にした家具の家(1995)などがある。I HOUSE、ダブル・ルーフの家、PCパイルの家、家具の家、紙の家という一連の住宅は、のちに坂によって「ケース・スタディ・ハウス」シリーズと名づけられ、それぞれ現代的なテーマによる実験住宅の系列として位置づけられるようになる。

 さらに坂は、紙という安価な素材による建築を難民用シェルターのプロトタイプにすることを思いつき、ルワンダの難民に対し、紙の建築による仮設住居の提供を提案する。1995年(平成7)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に自らコンタクトをとり、コンサルタントとなる(~1999)。こうした仮設住居の提案は、その直後に日本で起こった阪神・淡路大震災において十二分に活かされることになった。このときは被災地の神戸市長田区に、58本の紙管を楕円形に並べた紙の教会(1995)が建てられ、さらに同区に仮設住居として紙のログハウス(1995)を約30棟提供した。
 2000年、コロンビア大学客員教授。同年、ドイツのハノーバー万国博覧会の日本館を設計し、ドイツの構造家のフライ・オットーと協同して紙管によるドームの可能性を追求した。坂はこのように、既存のシステムをラディカルに読み替えることで鮮やかな合理的思考を展開する一方で、ミース・ファン・デル・ローエ流の透明で流動的な空間をもテーマとし

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